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初制作で生まれた二つの真相――ノベルゲーム【『ひーちゃんのために』】制作者インタビュー

3 時間前
読了時間: 24分


初のゲーム制作にして、プレイする誰もを驚かせるシナリオ展開と良くも悪くも(?)心に響く登場人物で高評価を得たフリーゲーム作品、『ひーちゃんのために』。V-Moaの特集記事で初となるインタビュー形式の取材に、快く応じてくれたのは、企画者の「じょせふ」さんと、イラストレーターの「佐々木」さんだ。

衝撃的な展開にプレイヤーを手のひらの上で躍らせるこの傑作は、一体度のようにして生まれたのだろうか。そして、制作の裏側にあったイラストレーター・佐々木さんの「アイデア」と「こだわり」とは!?


今回もどうぞ最後までお見逃しなく!!



じょせふ)じょせふと申します。普段は会社員として働きながら、個人制作でゲームを作っています。生粋のアニヲタです。よろしくお願いします。


佐々木)佐々木です! 普段は医療系の仕事をしていて、兼業でイラストレーターとしても活動しています😊 映画オタクです。よろしくお願いします。



取材・構成:蔦宮巧也(V-Moa編集長)



(記事は下に続きます!)



ノベルゲーム制作を始めたきっかけ


蔦宮)今作・『ひーちゃんのために』が初めての作品となるじょせふさんと佐々木さん。おふたりがノベルゲーム制作を始めたきっかけは何だったのでしょうか?


じょせふ)私が昔からノベルゲームを作りたいと思っていたのですが、自分でもびっくりするくらい絵が下手なので、イラストはイラストレーターさんに外注しようと考えていたんですよね。そんなときに佐々木と仲良くなって、「二人で作ってみるのはどう?」と提案させてもらったのがきっかけです。


佐々木)私はじょせふに誘われたのがきっかけです。もともと映画や物語が大好きだったので、自分のイラストで物語を作れるなんて面白そう!と思って飛び込みました。


じょせふさんが佐々木さんを誘ったことで始まったゲーム制作。

イラストがネックだったシナリオライターと、自分のイラストを物語の一部として使われる面白さを見いだしたイラストレーター。双方のメリットがピッタリ重なったことでゲーム作品が作られることになったのである。


『ひーちゃんのために』作品サムネイル。

ここだけ見ると、平和なラブコメ作品にも見えるが……?



『ひーちゃんのために』の着想


蔦宮)『ひーちゃんのために』という物語は、どのような発想から生まれたのでしょうか?


じょせふ)発想の出発点は、「多くのキャラクターを描くのは大変そうだから、閉鎖的な環境に限定される物語が良さそうだ」というところでした。そうなると、何らかの事情で監禁されている系の内容が良いのではないかと考えるようになりました。そこで、リファレンスになる作品をたくさん佐々木と一緒に共有して、案を出していった感じですね。


なんと、物語を考えるきっかけとなったのは『大変そうだから』という制作側としての都合。しかし、これは個人のゲーム制作……特に初めて作品を作るクリエイターにおいて大切なことのひとつでもある。

壮大で登場人物の多い作品を作りたくなるのはシナリオライターあるあるだが、それ故にコストや時間がかかりすぎると多くの場合良い結果を生まない。クリエイターが最も恐れる、“完成しませんでした”という原因のひとつがコレだ。


そういう意味で、じょせふさんには制作の大変さや今後考えられるリスク……。そんな“作るだけ”ではないアレコレが計画の段階で見えていたということなのだろう。


佐々木)じょせふが「監禁ものがいい!」と言ったので、片っ端から監禁映画を紹介しました。『オールドボーイ』や『私の生きる肌』のような、「監禁されている側にも事情がある」展開に方向性を持っていくようにしました。


監禁映画なるジャンルが存在することに驚くが、リファレンス(わかりやすくいうと、作る上で「目標としたりエッセンスを取り入れたりする作品」のこと)が明確であることも作品を作る上ではとても重要なことなのだ。

『ひーちゃんのために』があの独特な緊張感の上に成り立っている大きなポイントはこれらの監禁映画にあるのかもしれない。



作品と登場人物の表現


蔦宮)主人公とヒロインの会話を描くなかで、特に大切にした感情やメッセージはありますか?


じょせふ)特定の感情を大切にしたというわけではないのですが、キャラクターを描くうえで一番大事にしているのは、「そのキャラクターが実在すると思わせるほどのリアリティ」かなと考えています。実際にこの子がこういう状況に置かれたらどう振る舞うかな、どんな言葉を選ぶかな、という切り口で情景を細かく想像して、プロットを書きました。

メッセージについては、「復讐の再解釈」という部分ですかね。

この作品では、復讐を肯定も否定もしていないつもりです。一般的な作品のように「復讐は何も生まない」とは僕は思っていなくて。少なくとも当事者にとっては儀式として意味のあることなんだけど、それでも復讐の先には何もないよな、というのがこの作品の主張だと思ってます。


蔦宮)物語のなかで、特に思い入れのあるシーンやセリフを教えてください。


じょせふ)思い入れがあるのは、兄が、妹がいじめられていたことを初めて知るシーンですね。いじめって、もちろん当人が一番辛いと思うんですけど、被害者を大事に思っている人にとっても強烈なものだと思っていて。兄も、妹が学校に行かなくなったあたりからその可能性はもちろん頭にあったんですけど、「あぁ、やっぱりそうか」という絶望感と、可愛くて大事な妹が酷いことをされていたという事実のエグさが伝わるように努力しました。徹底的に兄の心情になりきって文章を書いたので、自分でも書いていて苦しくなりました(笑)


佐々木)ひーちゃん(ひな)がお兄ちゃんに必死に弁明するところが好きです。滑稽なのに、ビジュアルが可愛いから余計に可愛く見えてしまうんですよね。


じょせふさんが挙げたのは、兄の抱える絶望や苦しさが強く表れた場面。一方、佐々木さんが挙げたのは、ひーちゃんの滑稽さと可愛らしさが同居する場面だ。


シナリオとイラスト、それぞれ異なる角度から作品を作り上げた二人だからこそ、思い入れのある場面にも個性が表れているように感じられる。



ひーちゃんを「実在する妹」にするために


蔦宮)ひーちゃん(ひな)のキャラクターやセリフを描くうえで、気をつけたことやこだわったポイントがあれば教えてください。


じょせふ)台本パートに関しては、ひーちゃんはテンプレなツンデレ妹ではなく、兄をウザいと思いつつも深い信頼を寄せている妹、という兄妹の会話になるように意識しました。現実の仲の良い兄妹って、表面上は「うざ」とか、一見ツンツンしたコミュニケーションを取るじゃないですか。それに近いものが書けたらと思っていました。


佐々木)最初、ひーちゃん(ひな)の表情は1パターンしかなかったんですけど、あまりにも画面に動きがなくて面白くなかったので、制作後半で表情差分を入れるようにしました。入れたほうが断然「会話してる感」があって、後から「うわ、これめっちゃ重要だ」と実感しました。


じょせふさんが目指したのは、記号的な「ツンデレ妹」ではなく、現実に存在していてもおかしくない兄妹の距離感だった。

言葉だけを見ると冷たく感じられるが、その根底には兄への信頼がある。表情差分によって生まれた「会話してる感」も合わさり、ひーちゃんは画面の向こう側で生きているようなキャラクターになったのだろう。

当初は1パターンしかなかったという表情が、制作の後半になって増やされたというのも興味深い。実際にゲームとして組み上げて初めて見えてくる課題があることは、ゲーム制作ならではの難しさであり、面白さでもある。


表情変化まで作り込まれたイラスト




二つの結末が描く「復讐の先」


※ここからは、『ひーちゃんのために』のエンディングに関する重大なネタバレを含みます。


蔦宮)2パターン用意されているエンディングのうち、お二人がそれぞれ気に入っているエンディングはありますか?


佐々木)ENDAですね! 正しいことをした者が痛い目を見る、というのが妙にリアリティがあって好きです。個人的に胸糞悪い展開が大好きなので、「このゲームにおける胸糞展開ってなんだろう?」と考えたときにあの展開が浮かびました。じょせふ、通してくれてありがとう!


じょせふ)今作はダブルトゥルーエンドとして描いているので、どちらも好きですね。

ENDAは、「人間ってそう変わらないよな、特に悪人は」というメッセージを込めた胸糞悪いエンディングになっているんですが、なんともリアルで気に入っています。スタイリッシュさ重視でひなのセリフで締めくくりましたが、本当は、兄が捕まったと聞いた凪ちゃんがどう動くのかまで描きたかったですね(笑)

ENDBでは、歯止めが効かなくなった兄と、逃れられないストレスに長期的に蝕まれたひなの末路を描きました。憎くて仕方がないひなに「復讐してやる」と意気込んでいた兄ですが、死ぬほど憎んでいる相手への憎しみを燃やし続けるのは、それはそれで非常に高いストレスがかかると思うんです。虚しいし、辛いし、どうにもならなかった無力さを痛感するわけですから。その気持ちから無意識に逃げていくうちに、徐々に認知のほうが歪んでいってしまうんじゃないかと考えました。『進撃の巨人』のライナーのようなイメージですね(笑)

兄は徐々にわけが分からなくなっていって、現実に揺り戻す機会を与えてくれる凪ちゃんとも会いたくなくなっていきます。ある種、凪ちゃんは兄にとって「狂わないでいられるためのストッパー」として機能していたんですよね。そのストッパーと距離を取り始めたことで、兄は加速度的に狂気に染まっていきます。凪ちゃんのほうも兄を本気で心配しているものの、そもそもやっていることが倫理観の外にあるので誰にも相談できず、二人の間に入れなくなっていった――みたいなイメージで想像していました。ただ、これもスタイリッシュさ重視で作中ではほとんど語れていないので、皆さんの想像でどう補完されていたのかが気になりますね(笑)


本作には、一般的なゲームにおける「正解のエンディング」と「間違ったエンディング」という区別がない。

ひなを「許す」ENDAも、「許さない」ENDBも、制作者のなかではどちらも物語の真実になり得る「ダブルトゥルーエンド」なのである。

正しいと思う行動を取った結果、正しいことをした者が痛い目を見るENDA。復讐を続けた結果、兄もまた狂気に蝕まれていくENDB。

どちらの選択にも、分かりやすい救いや幸福は用意されていない。だからこそ、「復讐を肯定も否定もしない」「それでも復讐の先には何もない」という、じょせふさんの言葉が強く響いてくる。


筆者・蔦宮がゲームをプレイ実況した際には「ENDB」を選択したのだが、ある意味リアルで現実味に満ちたエンディングは「ENDA」なのではないかとも思う。

蔦宮がプレイしたリアルな声や感想も、この記事と合わせてぜひ楽しんでいただきたい。


筆者・蔦宮巧也のゲーム実況プレイ動画




(記事は下に続きます!)




制作のこだわり


蔦宮)約30~40分という短いプレイ時間のなかで、物語をまとめるために工夫したことはありますか?


じょせふ)テンポの良さを意識しました。前振りとなる「兄が怒るまでの仮初めの日常」のシーンは、本当ならもっとじっくり描きたかったんですが、そこで「つまらない」と思われてゲームを閉じられるのが怖かったので、必要最低限にまとめました。その分、後半のモノローグはかなり詳細に描いていて、メリハリのある作品にできたかなと思います。


佐々木)衝撃展開がひとつだけでは面白みに欠けると感じていたので、絶対に2つは入れ込みたいと考えていました。「①兄がヤバいやつだった」「②実は妹が……?」という2つの衝撃を、30〜40分にぎゅうぎゅうに詰め込めて嬉しいです。


作品の序盤で描かれる、ひーちゃんと兄の何気ない会話。それ自体が物語の重要な前振りでありながら、長く描きすぎればプレイヤーが離れてしまう可能性もある。

そこで、序盤の日常を必要最低限に抑え、物語が動き出す後半のモノローグを詳細に描く。短編作品だからこそ、「どこを削り、どこへ時間を使うか」という判断が重要になるのだ。

さらに、その限られた時間のなかへ二つもの衝撃的な展開を詰め込んでいる。プレイヤーがようやく物語を理解したと思った瞬間、その前提がもう一度ひっくり返される。この容赦のなさこそ、『ひーちゃんのために』の大きな魅力だろう。



作品の雰囲気がガラッと変わる名場面。

『ひーちゃんのために』はここから狂い出す。



蔦宮)文章・イラスト・音楽・演出のなかで、特に注目してほしい部分を教えてください。


佐々木)小説やイラストは普段から描いていたのですが、音楽や演出面に関しては技術的にも疎くて。テンポ感や、フェードアウト、音楽のかかるタイミングなどは「じょせふすごい!!」となったので、そこもぜひ注目してみてほしいです!


じょせふ)演出にこだわりました。ノベルゲームは、言ってしまえば読書体験に近いと思っています。その中で、読書よりもリッチな体験をしてもらうためにはどうしたらいいだろうと、様々な面で頭をひねりました。それぞれのシーンでプレイヤーに感じてほしい感情へ誘導できるよう、可能な限りこだわっています。


文章を読むだけではなく、音楽が流れ始めるタイミングや画面の切り替わり、フェードアウトの速度によって、プレイヤーの感じ方を変えられることがノベルゲームの強みだ。

じょせふさんが目指した「読書よりもリッチな体験」は、文章、イラスト、音楽、演出がひとつになって初めて成立するものなのだろう。


蔦宮)本作は、「ほのぼのゲーム→選択肢を間違えると虐待」、「兄が異常に見える→原因はひなにあった」という数多くの二面性があるところがとても面白い作品になっていると感じました。このように、プレイヤーの認識を揺さぶりながら物語へ引き込む展開は、どのように生まれたのでしょうか?


じょせふ)普段からミステリー小説を読むのが好きで、当初の解釈が後からひっくり返る作品が特にお気に入りでした。だから、自分でもそういう作品を常々作りたいと思っていたんですよね。そこで、リファレンスとして観た映画の展開のテイストを参考にしました。

また、第2の展開である「原因はひなにあった」という案は、実は佐々木が提案したものです。二人で「すごくいい!」となり採用になりました。大筋を書いたのは私ですが、シナリオの要所要所は佐々木と相談しながら作ったので、明確に二人の役割が独立しているわけではないんですよね。


佐々木)先ほども名前を挙げましたが、『オールドボーイ』『私の生きる肌』のほか、『RUN/ラン』『ゴーストランドの惨劇』『ミザリー』など、監禁ものの映画が好きなので、これらの要素を入れ込みたいと考えたのがきっかけです。


企画とシナリオを担当したじょせふさん、イラストとデザインを担当した佐々木さん。

クレジットだけを見れば、それぞれの担当は明確に分かれている。しかし、作品の根幹を担う「原因はひなにあった」という展開を提案したのは佐々木さんだった。

『ひーちゃんのために』は、一人が考えた物語に、もう一人が絵を付けただけの作品ではない。互いの好きな作品やアイデアを共有し、担当の垣根を越えて作り上げられた作品なのである。



色彩で分けた「ひーちゃん」と「おにーちゃん」


蔦宮)イラストレーターの佐々木さんに質問ですが、イラストや画面デザインを制作するにあたって、ひーちゃんの人物像や作品の雰囲気をどのように視覚表現しようと考えましたか?


佐々木)ひーちゃんのキャラデザは、完全にじょせふの好みです(笑)。どういう要素を取り入れたいか聞いたときに、「猫耳」「ツンデレっぽい子」と指示がありました。あと、髪型は私がレイヤーカット好きなので、互いの好みを詰め込んだら今のひーちゃんになりました。

視覚表現については、レイアウトやゲームの仕様自体は統一しつつ、「ひーちゃん」の会話パートではほのぼのとした雰囲気を、「おにーちゃん」の会話パートでは戦慄を感じさせる雰囲気を演出できるよう、色味に変化をつけています。レイアウトを大きく変えることなく、色彩によって両者の対比を明確にすることで、プレイヤーが「視点が切り替わった」「物語の流れが変化した」と直感的に感じられるよう工夫しました。


可愛らしい「猫耳」と「ツンデレっぽさ」はじょせふさんの好み、特徴的なレイヤーカットは佐々木さんの好み。ひーちゃんのデザインには、二人の“好き”が詰め込まれていたようだ。

また、本作は視点が変わっても、画面のレイアウトそのものは大きく変化しない。そのなかで、ほのぼのとした「ひーちゃん」の会話と、戦慄を感じさせる「おにーちゃん」の会話を分けているのが色彩である。

プレイヤーが詳しく説明されなくても、画面を見た瞬間に物語の変化を感じ取れる。デザインが装飾ではなく、物語を伝える演出として機能しているのだ。



ひーちゃんの会話画面。

一見するとコミュニケーションゲームのような華やかさ。


おにーちゃんの会話画面。

色彩の変化だけでここまで印象が変わる。



(記事は下に続きます!)



「いいじゃん」と「これは嫌だ」を重ねた共同制作


蔦宮)シナリオ担当とイラスト・デザイン担当が、それぞれのイメージを共有するために、どのようなやり取りを行いましたか? また、共同制作のなかで印象に残っている出来事があれば教えてください。


じょせふ)制作の流れとしては、まず大筋の案を僕が佐々木に提示して、企画を説明しました。次に決めたのは色の組み合わせです。人に与える印象は色の組み合わせによる部分が大きいと思っていて、まずそこを軸に細部を合わせていきたかったからです。そこで、ユメカワな雰囲気は緑とピンク、ホラーパートはモノクロで進行することに決めました。その後、どのような場面でどのような背景にするのかを整理して、僕は執筆作業に、佐々木はイラスト制作に取り掛かりました。

一緒に時間を取って作業することも多く、「これどうかな?」「いいじゃん!」を何度も重ねるうちに、初期構想に比べてもりもりな作品に着地した、という具合ですね。僕も佐々木もノリノリな性格なので、基本「いいじゃん」となったら採用。逆に、言語化できなくても片方が「これは嫌だ」と言えば不採用にしていました。

一番揉めたのは、「『許す』を選択した場合、兄の気持ちの流れとして違和感があるのではないか」という部分です。僕は普段からノベルゲームをプレイするんですが、ノベルゲームの選択肢には、時にキャラクターの人物像と乖離するような選択肢が用意されていることも多いんです。だから僕は「違和感はない!」という主張だったんですが、佐々木としては「許すわけがなさすぎる」ということでぶつかりました。気持ちは非常に分かるんですが、ゲームのコンセプトとして重要な意思決定を分岐に持ってきたかったので、なんとか僕のわがままを通していただきました(笑)


佐々木)イラスト・デザインも、シナリオも、お互いの好き嫌いをぶつけ合いながら、「うーん、確かに!」と納得がいくまで話し合って制作を進めていきました。だからこそ、私はこのゲームに「ここが嫌だな」と感じる部分がなくて、「めちゃくちゃ好き!」ってなります。

制作の中で特に印象に残っているのは、タイトル画面です。あれだけで丸2日はかかったような気がします。じょせふも私も「タイトル画面はマジ命、どれだけ時間がかかってもいい」というスタンスだったので、延々とレイアウトや色味、ロゴの位置を話し合いながら決めました。


片方が提案し、もう片方が言われた通りに作る。それだけでは、『ひーちゃんのために』のような作品にはならなかったのだろう。

「いいじゃん」と思えば採用し、どちらか一人でも「これは嫌だ」と感じれば不採用にする。言葉にできる理由だけでなく、互いの感覚まで信頼していたからこそ、二人ともが「めちゃくちゃ好き!」と言える作品へたどり着いたのだ。

タイトル画面だけで丸2日。初めてプレイヤーの目に触れる一枚へ注がれたこだわりからも、この作品に対する二人の熱量が伝わってくる。



作者の想定を越えたプレイヤーの解釈


蔦宮)実際に寄せられた感想やコメント、ゲーム実況プレイ動画のなかで、特に印象に残っているものはありますか。また、制作時には想定していなかった解釈などがあれば教えてください。


じょせふ)そもそも想定以上の人数にプレイしてもらえたこと自体に驚いていたのですが、いただいた感想で嬉しかったのは、「兄の無念さや悔しさに共感して苦しい気持ちになった」と言ってもらえたことです。フィクションのすごいところだと思うんですが、現実の出来事ではないのに、現実の出来事と同じくらい感情を揺さぶれたのなら、作者冥利に尽きるなと思いました。

あと、実況者様のコメントで、「虫も殺せないくらい優しい妹が、チョコミント好きに対してだけはやけに厳しい」という指摘があって、確かにな、と思ってすごく笑いました。

真剣なシナリオ面で言うと、「凪ちゃん黒幕説」を唱えている方が何人かいて、確かにそうとも読み取れるなと思いました。物語の構造上、実際にあったであろういじめの内容はまったく深掘りしなかったので、凪ちゃんが虚偽の証言をしていた場合、答え合わせのしようがないんですよね。それも面白いなと。作者としてはドヤ顔で「そうそう、そう読み取れるようにもしておいたよ」と言いたいところです(笑)


佐々木)先にENDB(許さない)を見て「うわー、しんど……」となってから、ENDA(許す)を見た方の「いや、Aのほうがしんどいんかい」みたいな感想には嬉しくなります。気持ちがめっちゃ分かる(笑)

想定していなかった解釈は、ひーちゃん(ひな)への同情的な意見です。私はひなを「絶対悪」「同情に値しない存在」としてキャラクター作りをしていたので、複雑な家庭事情がある描写から同情的な受け止め方をされたのは意外でした。嫌われるように意図して作ったキャラクターであっても、プレイヤー側の受け止め方は多様で、面白いなと感じました。


制作者が「絶対悪」として作った人物へ同情するプレイヤーがいる。一方、制作者が想定していなかった「凪ちゃん黒幕説」を見いだすプレイヤーもいる。

同じ物語をプレイしていても、登場人物の誰に感情移入するかによって、その受け止め方は大きく変わる。作中ですべてを説明せず、想像できる余白を残したからこそ、制作者の手を離れた後にも新しい解釈が生まれたのだろう。

それにしても、ENDBを見て「しんどい」と感じた後に、ENDAでさらに苦しめられるとは……。実際に筆者がプレイしたのもこの順番であったが、本当に胸がいっぱいになる気持ちを味わうことができた。

これからプレイする方には、ぜひ両方のエンディングを見届けてほしい。


黒幕説も囁かれる凪ちゃん。

果たして彼女の思惑はあったのだろうか……?



(記事は下に続きます!)



フリーゲームを作るということ


蔦宮)これは今後、V-Moaのインタビューで制作者の皆さんにお聞きしていきたい質問です。じょせふさん、佐々木さんにとって〈フリーゲーム〉とは、どのような存在でしょうか。また、作品を無料で届けることについて、どのような思いを持っていますか?


じょせふ)私としては、今回が処女作ということもあり、可能な限り多くの人にプレイしてもらいたいと思っていました。そのうえでまず、自分が良いと思うものを作れば認められるのか、を知りたかったです。価格を付けてしまうと、振り返ったときに「価格が適正じゃなかったせいで売れなかった」という可能性が残ってしまうのが嫌でした。価格という制約を取り払ったうえで、きちんと良いものを作ったらどんな反応があるんだろう、という実験的な意味も大きかったですね。

そういう意味で、私の中でフリーゲームとは、経済の枠組みから外れて、作品の良し悪しがフェアに評価される市場なのかなと思っています。良い意味でも悪い意味でも実力主義というか(笑)。なので、今後も実験的な作品はフリーゲームで出していきたいですね。


佐々木)フリーゲームは、ブランドを知っていただくための「無料の広告塔」のような役割も担っていると考えています。

プレイヤー側にとっては、無料だからこそ気軽に手に取って遊びやすく、制作側にとっては、「今後の活動につなげるためにも、まずは多くの方に自分たちの作品やブランドを知ってもらいたい」という思いを形にできる点が大きな魅力ですね。

広告費をかけるのではなく、実際にゲームをプレイして楽しんでいただくこと自体が、作品やブランドを知っていただくきっかけになる。その点に、フリーゲームならではの強みを感じています!!


価格という条件を取り払い、自分たちの作ったものが受け入れられるか確かめる「実験の場」。

そして、実際に作品を楽しんでもらうことで、制作者やブランドを知ってもらう「無料の広告塔」。

二人の捉え方は異なるように見えて、どちらも「まずは作品に触れてもらう」という点でつながっている。無料だから価値が低いのではなく、無料で届けること自体が、作品をより広く届けるための選択だという考え方なのである。



初制作で得た確かな手応え


蔦宮)ノベルゲームコレクションでは、『ひーちゃんのために』が初めての公開作品となっています。公開から約1ヶ月のインタビュー時点で、非常に高い評価を得ていますが、制作者としてどのような心境でしょうか?


じょせふ)非常に嬉しかったです! 公開する直前まで、自分たちの中では「うわー、紛うことなき神ゲーを作ってしまったわー」とか言っていて自信はあったんですが、そもそもフォロワーもほぼいないに等しい状態だったので、誰にも見向きもされずに終わる可能性も十分想定していました。自分たちの感性がバイアスまみれで、世間とずれまくっていたらどうしよう、という不安も大きかったですね。でも、ノベルゲームコレクションというプラットフォームがあったおかげで、そこでゲームを探している方には手に取ってもらえたのかなと思います。また、「自分たちが良いと思うものは、きちんと評価されるんだ!」という大きな自信を得ることができました。


佐々木)ゲーム制作が初めてで相場が分からず、「とりあえず10人くらいがプレイしてくれて、そのうち1人でも『面白かった』と言ってくれる人がいたら嬉しいな」というスタンスだったんですが、自分が想像していたよりもずっと沢山の方にプレイしていただけたことが嬉しいです。実況も全部見てますし、コメントもめちゃくちゃ読み返してます。


「紛うことなき神ゲーを作ってしまった」という自信と、「誰にも見向きもされなかったらどうしよう」という不安。

作品を発表する直前の制作者には、その両方があったようだ。

当初は10人ほどに遊んでもらえればと考えていた作品が、想像を越える数のプレイヤーへ届いた。そして、「自分たちが良いと思うものは、きちんと評価される」という確かな手応えを得ることができた。

初めてのゲーム制作で得たこの経験は、次の作品へ進む二人にとって、何より大きな原動力になるだろう。



ホラー×ミステリー、その先へ


蔦宮)今後、じょせふさん、佐々木さんはどのような作品を作っていきたいですか?


じょせふ)当分は、ジャンルとしてはホラー×ミステリーをやっていきたいですね。具体的には、過激すぎないけれど不穏な雰囲気と、登場人物のエモさ、そして謎が紐解かれていく快感が同居した作品を作れたらなと思っています。いつかこの系統に飽きて、全然別のジャンルに手を出しているかもしれないですが(笑)


佐々木)私の好きなジャンルが、監禁・戦争・無人島・因習村・閉鎖空間・デスゲームなので、このうちどれかひとつは要素として取り入れたゲームを作りたいです。あとは映画が大好きなので、映画の要素も存分に取り入れたいです。


監禁、戦争、無人島、因習村、閉鎖空間、デスゲーム……。

並んでいる言葉だけを見ても、次に作られる作品が穏やかなものではないことだけは間違いなさそうだ。

不穏な雰囲気と登場人物のエモさ、謎が解き明かされる快感。そして、佐々木さんが愛する映画の要素。

『ひーちゃんのために』でプレイヤーを二度も驚かせた二人が、次はどのような方法で私たちの認識をひっくり返してくれるのか。今から楽しみでならない。


蔦宮)最後に、『ひーちゃんのために』をプレイした方や、この記事を読んでくださった方へメッセージがあればお願いします。


じょせふ)本当に感謝しかないです。これまで、クリエイターの方々が口をそろえてプレイヤーへの感謝を述べるのを見て、「聞こえの良いことを言って好感度を狙ってるのかな」と斜に構えた解釈をしていました。でも実際に自分のゲームがプレイされる喜びを知った今は、本当に感謝の言葉しか出てきません。(語彙力)

今後も、皆さんの期待を大きく上回る作品をお届けできるように精進します。


佐々木)初めて作った作品が『ひーちゃんのために』でした。伸びても伸びなくてもゲーム制作自体が楽しかったので、「今後も作るぞ!」という意欲はもともとありました。ですが、プレイや実況、コメントをしてくださる方がいると、こんなにもモチベーションに繋がるのかと胸が高鳴りました!

早く次回作を作りたくてウズウズしています。皆さん、本当にありがとうございます!


初めてのゲーム制作として生まれた『ひーちゃんのために』。

限られた登場人物と閉鎖的な舞台から始まった物語には、二度にわたってプレイヤーの認識を覆す仕掛けと、復讐の先を考えさせる二つの結末が詰め込まれていた。

企画・シナリオとイラスト・デザイン。それぞれの担当を持ちながらも、役割の境界を越えてアイデアと好き嫌いをぶつけ合った二人だからこそ、この作品は完成したのだろう。

そして、作品を受け取ったプレイヤーの感想や解釈は、すでに制作者の想像を越えて広がり始めている。

次回作を作りたくてウズウズしているという二人が、次はどのような物語を届けてくれるのか。

V-Moaも、その新たな挑戦を楽しみに待ちたい。





【この記事を書いた人】

蔦宮巧也

創作エンタメメディア「V-Moa」編集長。フリーゲームや自主制作作品を中心に、クリエイターへのインタビューや作品紹介を行っている。自身もノベルゲーム、音楽、映像などの創作活動に携わりながら、作品だけでは見えない制作者の思いや制作背景を伝えている。





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